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まちづくり・観光
2019.03.26

地域で育て、加工し、使う、「風土の紙」で地域に誇りを

柏崎市
越後門出和紙
小林 抄吾さん
きっかけは母校の閉鎖
柏崎市高柳町に位置する門出地区は、平年積雪が3メートルという大変雪深い場所である。ここに工房を構える越後門出和紙の小林抄吾さんは職人として働きながら地域のために様々な活動を行なっている。その内容や、活動に込めた想いについて伺った。

越後門出和紙を営むのは小林さんの実家で、小林さんの父、康生さんの代で5代目だ。越後門出和紙の工房は「生紙(きがみ)工房」と名付けられ、楮(こうぞ)を原料に作られた未加工の純粋な紙=生紙作りにこだわっている。小林さんは、小さい頃から何となく家業を継ぐと思っていたし、逆に生まれ育った場所を離れて生活することが想像できなかったそうだが、県内の大学を卒業後、一度は外の世界に出て視野を広げた方が良い、という両親からのアドバイスもあって、5年ほどの予定で東京の企業に就職した。

勤め先は農業系の出版社だったことから、全国の農村を見て回り、いろんな農家の方と会い、雑誌の営業を通じて話をする機会があったという。他の地域を知ることはとても興味深く、改めて高柳町の良さを再認識することも多くあり、小林さんは地元を離れた生活も楽しんだそうだ。

就職して3年が経った頃、母校である門出小学校の閉校を知った。ついにその時がきたというショックと、閉校によって地元の地域がなくなってしまうような不安を感じたという。自分が地域を何とかしなくてはと、使命感に駆られた小林さんは予定を早めて地元へ戻ることにした。
実家を継いで和紙職人に
高柳町に帰ってやりたいことは色々あったが、まずは工房の仕事である。小さいころからちょっとした仕事の手伝いはしていたが、紙作りは原料となる楮を育てることから始まり、覚えることは非常に多い。楮はこまめに脇芽をとらないと収穫が大変で、収穫後も煮たり、叩いたり、作業は紙漉き以外にも何工程にも及ぶ。小林さんは、このように自ら楮を育て、手間暇かけて作った紙を「風土の紙」と呼んでいる。地域で育てた楮を地域の人が加工し、地域の人がそれを使う、そんな地域に根差した紙であってほしい、という想いを込めた言葉だ。

その一環として、高柳小学校で、卒業生自身が楮を育て、卒業証書用の紙作りに取り組んでいる。卒業生がいない年には、5年生の児童が自作の紙で作品をつくり、地元の雪祭りに出展するなど、アイディアを提案し実行してきた。「子どもはとても飲み込みが早く、一度失敗すると次に作業する時には自ら工夫をする。そういった成長はとてもおもしろい」と小林さんは感じている。

しかし、これだけでは門出和紙の地域への浸透はまだまだ十分ではないと小林さんは言う。「地域の人はみんな門出和紙があることは知っているが、どこで育った原料で、誰がどのように作っているか、それをどう使うかを考えている人は少ない。門出和紙は門出という地域がなければ成り立たないのだから、もっと身近に感じてもらえるよう、これからもっと工夫していきたい」そうだ。
地元をもっと盛り上げたい
紙作りの仕事と並行して、「門出・田代べとプロジェクト」の中心メンバーとしても活動している。6年前に高柳町の門出・田代地区を盛り上げ、文化と技を伝承していくために立ち上がった団体で、ベースの活動は毎週月曜日に行なう「べとプロ集会」だ。参加費は100円。それぞれが飲み物、食べ物を持ち寄ってやりたいことを話したり、日々の雑談をする。集会には主要メンバーである20代から60代の世代もバラバラな8名が集うほか、門出・田代以外の地域からもゲストが来ることが多いが、小林さんは「それが一番」だという。「べとプロの活動自体は小さなことかもしれない。しかし、何かやっているとおもしろがって人が寄ってくる。そういう場を大切にしていきたい」。実際、ここでできた縁で町外にも活動の輪を広げている。

また、門出・田代で頑張る人やべとプロの活動を紹介する会報誌「門出・田代べとプロだより」は、小林さんが編集長を務め、創刊以降、年4回の発行を1度も欠かしたことはない。かんじき作り職人や地元の農家民宿「かやぶきの里」を盛り上げようと活動してきたお母さんたちの取材を通して、小林さん自身にもたくさんの発見があったり、もっと知りたいという意欲がわいたり、知り合いが増えていく過程をとても楽しんでいるという。

「自分は地域に入ってまだ6年ほど。紙作りも地域活動も先輩から学ぶことはまだまだ多く、できないことのほうが多い。しかし、「べと(土のこと)」をしっかり耕して、何ごとも上っ面だけで終わらない、地域にしっかり根をはった活動をしていきたい。さらに、今後は後輩育成にも力を注げるよう、自分の想いを語り、やり方を伝えられるようになりたい」と今後の活動について熱く語った。

そして、「小学生と関わる様になってから、家庭を持ちたいと思うようになった。家庭がなければ、地域はあり得ない。嫁さんもそろそろ探そうかな」と。

そんな小林さんが勤める生紙工房では、誰でも見学と紙漉き体験ができる。みなさんもぜひ、高柳を訪れてみてはいかがだろうか。
越後門出和紙

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