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子育て・教育
2019.03.26

「復学が全てではない」居心地の良さと安心感が子どもの選択肢を増やす

長岡市
あうるの森 理事長
山田 竹紘さん
今、必要なこととは何か
長岡市の住宅街に、可愛らしい一軒家がある。木のぬくもりを感じるこの場所が「あうるの森」だ。2013年に立ち上げられた学びのスペースで、2015年にNPO法人となった。「放課後学びコース」(放課後の児童預かりサービス)と「不登校支援コース」の2コースが設定されているほか、生活保護世帯や生活困窮世帯への学習支援も行っている。子どもたちの元気な声が響く中、理事長の山田竹紘さんに、子どもと関わる活動を始めた経緯や想いについてお聞きした。

山田さんは、ご両親が教職に就いていた影響で元々教育分野に関心があり、高校生の頃、学校教育についてもっと追求したいという想いからドイツの高校へ1年間の留学を経験した。ドイツと日本では教育システムや授業スタイル、教師と生徒の関わり方が大きく異なっていることに驚いたという。

この留学経験で山田さんが印象的に感じたことは、自分が日本で受けてきた教育は唯一の方法ではないということ。国や地域によって、教育システムは変化するということを学び、大学院へ進学し、研究を深めることにした。研究テーマは、家庭が貧困世帯であるとか、不登校になってしまった等の理由から、「通常の教育を受けられない人のための教育」であった。収入の多少と学力の高低の関連性、不登校の連鎖について、その理由を研究しようと考えたそうだ。

研究に打ち込んでいた大学院1年生の3月、東日本大震災が起こった。山田さんは様々な報道で炊き出しやボランティアに行っている人の姿をみて、今、この瞬間に困っている人がいることにハッとしたという。研究者の仕事も素晴らしいが、貧困家庭の教育や不登校の対策についての研究成果がすぐに日本の教育に取り入れられても、反映されるのはうまくいって20、30年後…今、現実に困っている子どもがいるのも事実であると気付き、山田さんは悩んだ結果、起業をしようと思い大学院を退学した。

社会人経験を積むために、東京の学習塾に就職したが、ここでは不登校の子どもの入塾を拒否していることを知り、山田さんの問題意識はますます大きくなった。そうして1年後、長年研究テーマとしてきた、通常の教育を受けられない子どもの支援をするような場所を地元・長岡でスタートさせたのが、あうるの森である。
あうるの森「不登校支援コース」の二つの特徴
あうるの森の「不登校支援コース」には特徴が二つある。一つは、2013年の立ち上げ当初から、あうるの森で過ごした日数を、小中学生に限り在籍校の出席扱いにできることだ。子どもたちが将来、社会に出る際には高校卒業の学歴を求められることが多く、子どもたちが高校へ進学したい、と思ったときに出席日数が不足しないよう、山田さんが一人ひとりの在籍校に提案をしてきたのである。学校の先生と密に連絡を取り、あうるの学校での活動を丁寧に伝えることで、この提案は問題なく受け入れられてきたそうだ。

もう一つは、学習に力を入れていることだ。あうるの森では、毎日4時間ほど学習の時間を確保している。復学した時に授業についていけるためだけでなく、子どもが自信をつけるということが大きな理由だという。学習時間をしっかり確保し、以前は解けなかった問題が解けるようになったり、定期テストで点数が上がったり、子ども自身が成長を感じられるよう指導している。また、英語検定や漢字検定にも積極的に挑戦しているそうだ。合格という目に見える結果がでると、子どもは自信を持ち、子どもが自信を持つと保護者も元気になるという。
山田さんにとっての「正解」
こうした活動を通じて、山田さんは自身や周囲の変化を感じているそうだ。それまで、自分や知人に不登校の経験はなく、不登校の子どもは、話すのが苦手で暗い…そういう世間と同じ印象をもっていたが、実際には学校に行っている子どもたちと何にも違わないことに気が付いた。卒業生や保護者から感謝の手紙が届くこともあるし、一度連絡をとった先生が、転勤先の学校でも再度頼ってくれることもある。最近ではメディアの取材も増え、積極的に活動の周知はしていないものの、あうるの森を訪ねてくる子どもは増加しているという。

しかし、学校に行くのが普通なのに、という世間の偏見はまだまだ根強い。不登校の理由で最も多いのが「無気力」で、原因ははっきりとは分からない場合もあるという。山田さんは、子どもが行きたくない気持ちを言語化できないだけだと考えているが、多くの大人はこれを甘えと受け取りがちだ。不登校の原因もわからぬまま、学校に戻ることが一番、と決めつける人もいる。
2017年2月に制定された教育機会確保法では、学校以外の教育の場を認めることに重点を置いている。復学だけが唯一の解決方法ではなく、適応指導教室の充実やフリースクールを認める動きなど、不登校児の支援を行う人にとっては追い風が吹き始めているが、世間へ浸透するにはまだ時間がかかるだろう。山田さんはあうるの森が長岡市の適応指導教室のひとつとなれば、不登校になった子どもの選択肢を増やすことができると考えているが、そのためには行政との連携が今後の課題である。

山田さんに、どんな時に活動の成果を感じるかを尋ねてみた。復学すること、社会復帰することも成果のひとつであるが、子どもたちが日常生活の中で小さい目標を一歩ずつクリアしていくことに成果を感じるそうだ。学校へ定期テストを受けに行く、資格試験の受験に参加する、そして合格する、ボランティアを自分たちで企画してやり遂げる、など決して大きくはない目標であるが、子どもたちがあうるの森で着実に成長していると感じることができるという。

不登校の理由、その子との向き合い方は、本当にそれぞれ違っていて唯一の正解はない。山田さんは「復学が全てではない、学校に行かなくても大丈夫」というスタンスで、愛を持って接することを大切にしているという。

「何よりも重要なのは、安心して過ごすことができる場所をつくること。ひとりでも多くの子どもが、居心地が良いと感じることが第一であり、そのためにあうるの森の活動を継続していきたい」と、山田さんは力強く展望を語った。
あうるの森

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