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健康と福祉
2022.11.24

光の当て方を変えると見えてくる「その人らしさ」を大事にしたい

長岡市
なうネット長岡 副代表
足立裕介さん
障害のある方が楽しく安心して過ごせる地域づくり・ネットワークづくりを目指して、障害者福祉に携わる職員が、法人の垣根を越えて事例検討会や意見交換、アール・ブリュット展の開催等に取り組む「なうネット長岡」。副代表の足立裕介さんに活動への想いを伺った。
法人の垣根を越えた横のつながり
 なうネット長岡は、障害のある方の福祉サービス向上を目指し、長岡・出雲崎地域の障害者福祉施設の職員有志により構成されるネットワーク団体だ。
 2006年頃、福祉を取り巻く法律や制度が大きく変わり、障害者福祉業界が混乱していた中、法人の垣根を越えた情報交換の場として、定期的に集まっていたことが団体の発足につながった。2007年の設立以来、事例検討会や意見交換、講演会や芸術文化活動などを通して、地域のよりよい福祉の実現を目指し活動を続けている。
 副代表を務める足立さんは、社会福祉法人に勤務しながら、なうネットの活動に参加している。別の法人に所属するメンバーとの交流について、「競合するライバルでありながら、支援する先は同じ。気兼ねなく意見を言い合いながら協力してやっていける、良い仲間ができた。」と話す。
長岡地域で初となるアール・ブリュット展を開催
 なうネット長岡の代表的な活動が、「アール・ブリュット」に関する取組だ。「アール・ブリュット(art brut)」とは、フランス語で「生(なま/き)の芸術」を意味する言葉で、美術教育を受けていない人などが、既成の表現法にとらわれず自由に制作した作品をいう。
 新潟県内では2015年から上越の団体がアール・ブリュット展に取り組んでおり、長岡での開催をなうネット長岡が協力する形で取り組みがスタート。2016年に地域初となるアール・ブリュット展をアオーレ長岡で開催した。展示会は好評で、足立さんらも大きな成果を実感したため、翌年からはなうネット長岡が主体となり開催している。回を重ねるごとに市民の関心が高まり、2018年には3日間で約1,000人が会場に足を運んだそうだ。
 足立さんは展示会の開催にあたり、勤務のかたわらで特別支援学校や障害者福祉施設に作品についてのアンケートや訪問調査をし、作品集めに走り回った。
 作品を借りる際は、担当職員からその作品が生まれたエピソードなども聞き、展示が終わると返却する。作品を借りに滋賀県まで往復したこともあったそうだ。「準備に約1年かけて、3日間で終わる。花火みたいなイベント。」と足立さんは笑う。
 作品の展示や会場の設営、展示会当日の作品の監視にも人手を割いたが、全てなうネット長岡のスタッフが本業との折り合いをつけながら行った。準備の苦労は大きいが、「みんなが楽しんでやってくれた。みんなの協力があったからやれた。」と足立さんは振り返る。来場者アンケートには、「パワーをもらった。」「感動した。」と、嬉しい言葉がたくさん書いてあり、達成感と大きな成果を感じたそうだ。

 2019年には大学のオープンキャンパスでの出張展示や、企業による大規模イベントへの出展を通して、作品が市民の目にふれる機会を増やした。2020年からは新型コロナウイルス感染症の影響で、会場に人を集めることができなくなったため、アオーレ長岡の通路に作品(複製)を一ヶ月間展示する工夫も取り入れた。カラフルなアート作品で通路を飾り、多くの市民の心を和ませたそうだ。
小さな紙切れから生まれた唯一無二の作品
 足立さんは、作品が生まれた代表的なエピソードを語ってくれた。
 ある施設利用者が、レシートのような小さな紙を、切り絵のようにハサミで切って、毎朝職員に渡していた。彼にとってそれは挨拶代わりであり、家で切った紙切れを毎日持ってくるので、施設には莫大な数の紙が集まっていった。
 ある日、それがアートディレクターの目に留まった。小さな紙きれは、並べて見せることにより、幾何学模様のようなデザインの、大きな作品に生まれ変わった。
 「家族から見たら、ゴミ箱から拾った紙を切っただけの、ゴミなんですよね。でも、ゴミが作品に変わったときに、『彼はこれでいいんだ。』と彼の行動を認めることができたそうです。自分の子どものこの行動に光が当てられるとは思っていなかったと、ご家族から喜びの声をいただきました。」と嬉しそうに話す足立さん。
 さらに、展示会でこの作品に共感した方から、他県で展示したいとの声があり、作品が県をまたいで展示されることになった。これまで旅行にも行けなかった家族が、我が子の作品が展示されたことをきっかけに家族旅行に行くことができたそうだ。
 「彼の行動を見る目が変わるだけで、一躍家族の大スターになった。アートという違った視点で関わることで、彼らがヒーローになる変化を感じた。日常的な障害者支援の中では、なかなか生まれない出来事だった。」と足立さんは語る。
 アール・ブリュットをきっかけに、各施設の職員たちの意識にも変化が生じ、利用者の行動も、光の当て方次第でアートになる可能性があると考えるようになった。このことは、利用者と職員間のコミュニケーションの増加につながり、社会生活に良い影響を与えているそうだ。
アール・ブリュットを通して引き出される新たな可能性
 近年、アール・ブリュットの展示イベントは、全国各地で開催されている。アール・ブリュットがデザインとして使われることで権利的収入があり、新たな労働のかたちとして、障害者の所得向上の側面から積極的にアール・ブリュットを取り入れている企業も増えてきているそうだ。
「障害者アートだから使ってください、ということではなく、対等なパートナーとして使ってもらいたい。長岡の企業とも一緒に何かできないかと話が広がっており、それを形にできたらいい。」と、足立さんは地元企業と協働した商品開発にも意欲を見せる。

 最後に、今後のなうネット長岡の活動について、足立さんに尋ねた。
 「コロナ禍が落ち着いたら展示会はまたやりたい。『次はいつ?こんなの作ったよ。こんなの見つけたよ』との声もいただいている。長岡市内でアール・ブリュットを展示しているところを増やしていき、市内に当たり前として溶け込んでいる状態が良い。」と、次回アール・ブリュット展開催への意気込みを語る。
 さらに足立さんは「障害のある方々が、言葉にできない部分を一心不乱に塗ったり書いたり表現している。アートの才能を潜在的に持った方はまだまだいらっしゃると感じる。」と話す。紙とペンで何が生まれるか、才能を引き出すきっかけとなるようなワークショップを企画して、アートを通した障害者との関わりを広げていく構想もあるそうだ。
 福祉の仕事を通して、ものづくりやデザインなど、思いがけずクリエイティブな分野に関わることになった足立さん。「仕事の中でいろいろな勉強をさせてもらえている。時々、自分が何屋だかわからなくなる。」と笑う。福祉というと大変な部分が注目されがちだが、「面白い分野で良かった。」と話す足立さんの笑顔から、良い仲間と共にこの仕事を本当に楽しんでいる様子が伺える。
 なうネット長岡、そしてアール・ブリュットの今後に注目したい。
なうネット長岡

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