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健康と福祉
2022.02.08

国境のない空のような共生社会を実現したい

上越市
NPO法人ギフテッド 理事長
寺尾明美さん
 上越地域初である重症児(SMiD)デイサービスSoraを運営するNPO法人ギフテッド。「共生社会における心のボーダーレス」を法人理念に掲げ、障害の有無に関わらず、それぞれの個性を活かしあった共生社会の実現を目指している。理事長の寺尾明美さんに設立から現在に至るまでの想いを伺った。
共生社会を目指す中で自分にできることはなにか
 看護師として病院に勤務していた寺尾さんは、障害を持つ子どもたちの入院中の余暇活動を支援するために、別の病院へボランティアとして通っていた。保育士の資格も取得するほど、子どもと遊ぶことが大好きな寺尾さん。子どもの成長発達に一番大切なのは遊びだと考え、子どもたちの心が楽しくなるような活動を取り入れ、交流を深めていった。それと同時に、重症心身障害児(※1)の母親たちが24時間体制で付き添う姿を目にし、介護の苦労を知った。
 自身も4人の子どもを育てる母親である寺尾さん。子どもたちの成長とともに育児が楽になったと感じはじめていた。そんなある日のこと、一人でリラックスしている時に、こんな今も介護で休めない母親たちがいることに気がついた。
 その当時、寺尾さんは共生社会の実現を目指して、障害者の余暇活動を支援するNPO法人を立ち上げようと準備を進めていた。同じタイミングで、上越地域に重症心身障害児や医療的ケア児(※2)が自由に遊べる場所や、介護する母親たちが休息できるシステムがないと知った。
 共生社会を目指す中で、看護師と保育士の資格を持った自分にできることは何なのかと、ずっと模索していた寺尾さんの中で、「これだ!」と一筋の光が差した。
ここからNPO法人設立とSMiD(※3)デイサービスの開設、同時進行で寺尾さんの挑戦が始まった。

(※1)重度の肢体不自由と重度の知的障害とが重複した状態を重症心身障害といい、その状態にある子どもを重症心身障害児という。
(※2)人工呼吸器などの重い医療的ケアを必要とする障害児のことをいう。
(※3)重症児(重症心身障害児かつ医療的ケア児)の英語略称。
重症児デイサービスの先駆者から学ぶために名古屋へ視察に
 上越地域に医療的ケアを必要とする子どもたちの受け皿をつくりたい。しかし、誰に聞けば良いのか全く検討もつかない状況で、愛知県名古屋市に全国重症児デイサービス・ネットワークという団体があることを思い出した寺尾さん。「わからなければ聞きに行こう。」と思い立って、すぐに視察を申し入れた。
 2日間の視察の中で、代表理事(当時)の鈴木由夫さんから、「なければ創ればいい。お金がなければ借りればいい。わからなければ聞けばいい。」とアドバイスを受けた。この言葉が寺尾さんの心を大きく突き動かした。
 視察を終えた寺尾さんは、すぐに上越市役所を訪問した。幸運にも、寺尾さんの知り合いが面談の場を設定してくれたのだった。
 施設を必要とする声が上がりながらも実現していなかったSMiDデイサービス、その開設にかける思いを説明した。その結果、思いがけず市の施設の一室を借りられることになった。
 「市の協力を得られたことが一番の幸運だった。」と寺尾さんは話す。
賛同して集まってくれたさまざまな才能を持つ仲間と共に
 デイサービスを開設する場所も決まり、本格的に準備に奔走する日が続いた。「待っているお母さんがいるから、早くやらなければ。」という思いで、わからないことは様々な関係機関に問い合わせながら、手探りで準備を進めた。
 「考えてから動くのではなく、動いてから考えるタイプ。」寺尾さんは自らをそう表現する。できないで終わるのではなく、どうしたらできるのかを考える。たとえできなかったとしても、行動することによって思いがけない別の方向で扉が開くという。
 そんな前向きな寺尾さんに共感する人が多く、SNSを活用してデイサービス開設を宣言すると、賛同してくれる仲間が多数集まってきた。「この指とまれ!って言ったら集まってくるよ。」これも、名古屋の鈴木さんから教わった秘訣だった。その助言通りに実行した寺尾さんの呼びかけに集まってきてくれた人たちは、アーティストや格闘技の指導者など、実にバラエティに富んでいる。
 意外にも、ギフテッドの理事の中に、医療従事者は寺尾さんただひとりだ。「職種も様々な人たちの、それぞれの個性が生かされて、ギフテッドはうまくまとまっている。」と寺尾さんは話す。
 寺尾さんの広報戦略はSNSだけにとどまらない。地域の人たちにデイサービスの開設を知ってもらうために、上越教育大学の協力のもと「共生社会フォーラム」を開催した。 
 寺尾さんは子育てをしながら看護学の研究生として同大学で学んだ時期があり、大学との強い繋がりがあった。「昔から学びたい気持ちが強かった。子どもがいたって勉強できる。全部タイミングが良かったんです。」と苦労を感じさせず笑顔で話す。
 寺尾さんがデイサービス開所を決意してから約半年後の2021年5月、寺尾さんをはじめとした力強い仲間たちと、施設を待ち望む母親たちの希望が形となり、SMiDデイサービスSoraがオープンした。
介護で疲れているお母さんをいかにして休ませるかを考えていきたい
 開所当初は1人だった利用者も、新聞やテレビによる報道や、母親たちの口コミにより評判が広がり、現在は20人に増えた。
 子どもたちが持つ可能性を最大限に引き出すため、Soraでは活動予定を決めず、来所した子どもたちが何をやりたいか、その日の気分で自由に決める。「障害があってもなくても、自分で選択できることが大事。」と話す寺尾さんは、利用者と職員の壁をなくし、友達のような関係を築くことを目指している。母親たちともよく話し、要望があればひとつずつクリアしていくように心がける。
 Soraの独自サービスのひとつに送迎があり、寺尾さんも糸魚川市や妙高市へ送迎車を運転する。この送迎サービスが母親たちに好評で、とても喜ばれている。
 どの母親も、最初のうちは我が子を預けることに対して不安や後ろめたさがあり表情が硬い。ところが、Soraに預けた子どもがとても良い表情で帰ってくるので、母親たちは安心して子どもを送り出せるようになってくる。「お母さんたちの表情が変わっていくのを見るのが一番楽しい。」と寺尾さんは喜びを語る。
「とにかくお母さんにも自分の時間を持ってほしい。お母さんが元気だと子供が元気だから、お母さんの休息は重要だと思う。」と話す寺尾さんからは、母親たちの心に寄り添う優しさが溢れていた。

 Soraの開所から半年経ち、利用する母親やスタッフみんなで意見を出し合い、より良い居場所づくりを心がけている寺尾さん。呼吸器をつけた子どもが遊ぶときや、大きな車椅子が入ったときに、部屋の狭さが危険性につながるため、部屋の拡張も考えている。
「ここはお母さんたちと私たちの夢。一緒に創り上げてきたものだから、更に発展していきたい。」寺尾さんの挑戦は今後もさらに続きそうだ。
NPO法人ギフテッド

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