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健康と福祉
2021.12.14

だれもが安心して自分らしく生きる地域にしたい

十日町市
NPO法人十いろ 理事長
髙橋愛さん
 豪雪地である妻有地域(十日町市・津南町)で、成年後見・終活サポート事業と放課後等デイサービスの二本柱で事業を展開しているNPO法人十いろ。「自分らしく生きる」を理念に掲げ、高齢になっても、障害があっても、その人らしく生きることを実現するために、地域の高齢者支援者らと連携してサポートしている。理事長の髙橋愛さんに活動への想いを伺った。
十日町に住んで見えてきた地域の課題
 東京都出身の髙橋さんは、結婚を機に十日町市に移り住んだ。幼い頃からスキー旅行で湯沢に訪れていたので、新潟には馴染みがあったが、住んでみると想像以上に雪深く、雪に閉ざされ孤立してしまう豪雪地の苦労を実感した。その一方で、十日町の人々はみな、いわゆる「よそ者」である髙橋さんを、あたたかく迎え入れてくれたと話す。

 社会福祉士として、社会福祉協議会や地域包括支援センターなどで勤務してきた髙橋さんは、多くの高齢者と関わるなかで、高齢者虐待の家庭や、消費者被害に遭った一人暮らしの高齢者の実情を目の当たりにしてきた。
 ある高齢者が電気料金滞納により電気を止められたと聞き、民生委員と共にその家を尋ねると、高級絨毯や新品の布団があった。実は半年間で200万円もの消費者被害に遭っていたというケースもあったそうだ。
 高齢者が認知症などにより判断能力が低下した場合、財産管理や重要な契約を代理で行うことができる成年後見制度がある。ところが、成年後見人になる専門職は、十日町にはいなかった。そこで髙橋さんは、仕事仲間の社会福祉士や保健師らに声をかけ、高齢者が安心して暮らせる権利を守るために、この地域課題に取り組む決意をした。
高齢者の安心を支えるためのネットワークづくり
 活動を始めるにあたり、髙橋さんは「私たちだけでやりたいと言っても、信頼もないし、賛同してくれる人がいなければできない。ネットワークがないと仕事も来ない。まずはこの地域での仲間づくりから始めていこう。」と考えた。法人設立に先駆けて、髙橋さんは個人で社会福祉士事務所を立ち上げ、成年後見人を受任する仕事を始めた。さらに、社会福祉士、精神保健福祉士、ケアマネージャーなどを対象とした勉強会を開催し、成年後見についての周知とネットワークづくりに力を入れた。
 髙橋さんらの地道な活動が着実に広がり、高齢者を支援する様々な業種の賛同者が集まった。そして、2019年9月にNPO法人十いろを設立する運びとなった。

 十いろの法人名は、理念として掲げている「自分らしく生きる」を象徴する「十人十色」に由来している。年をとっても、障害があっても、自分の人生は自分で決めていくことが、その人らしさにつながっていくと考えた。「十日町の『十』は入れたかった。」との言葉に、髙橋さんたちの十日町への愛情が感じられる。
自分の人生を最期まで自分で決めるためのお手伝い
 成年後見は意思能力がなくなった時に使える制度であるため、依頼を受けて知り合ったときにはすでに本人の意思表示ができない状態の方も多い。その場合、その人がどのような暮らしを望み、どのような人生を送っていきたいのかがわからず、周りの人が最善の判断をしていかなければならない。髙橋さんは「これでいいのかな?この人って本当にこんなふうにしたかったのかな?と、いつもモヤモヤしながら関わっていた。」と話す。
 そこで、十いろが成年後見に加え取り組みを始めたのが、終活サポート事業だ。身寄りのない人、結婚しない人、子どものいない人が、自分でしっかりと意思表示をできる段階から老後や死後について準備できる仕組みが、成年後見と同様に重要だと考え、本格的なサービス提供に向けて力を入れている。

 髙橋さんには自分自身の問題意識もあった。高齢者支援に携わりながら、「自分が高齢者になった時に、安心して最期を迎えられるような地域になっていればいいな。」と思い始めた。定年後は東京に戻ろうかと考えていた時期もあったが、縁があって暮らし始めた十日町は、人があたたかく、愛着も湧いて良いところだと感じている。「自分がずっと住み続けたいと思えるような地域にしたい。」と話す。
地域の子どもたちの将来を見据えた発達支援
 十いろには、設立当初から、「この地域で活躍している社会福祉士がやりたいことを応援する法人となる」という構想がある。特別な支援が必要な子どもを対象とした放課後等デイサービス「ヒュッケ」もその一つだ。
 既存の施設では地域のニーズに対応し切れていない現状があり、十いろの事業として、開設することを決意した。
 物件探しや資金繰りに難航し、「いま思い出しただけでも泣けてくる。」と笑いながら準備期間の苦労を振り返る髙橋さん。結果的に当初の開所予定を延期したが、万全の準備を整えて2021年4月にオープンにこぎつけた。
 ヒュッケとは北欧の言葉で「居心地のよさ」を意味し、子どもたちが安心して過ごせる場所の提供を目指している。現在は14名の登録があり、多い日で9名が利用する。
 「他の放課後デイで馴染めなかった子が、ヒュッケが楽しいと言ってくれる。ヒュッケを選んでくれたのが嬉しい。」と喜びを語る髙橋さん。今後は、得意なことを持っている地域の人たちも巻き込んで、子どもたちが学校や家では経験できないようなことを経験できる第三の場所になっていけるように、プログラムを充実させたいと考えている。「この地域の子どもたちが、大人になってもこの地域で過ごせるような、将来を見据えた発達支援をしていきたい。」と展望を語った。

 「NPO法人は仲間がいないとできない。ひとりでは無理。医師、弁護士、司法書士、賛同してくれる仲間がいたからできた。信頼度も高いし、NPOにして良かった。」と話す髙橋さん。賛同してくれる人がいるということは、この活動が必要とされているということ。それが髙橋さんたちの励みになり、活動への原動力となっている。

 取材に訪れた日も、何本か問い合わせの電話があり、髙橋さんが慌ただしく対応していた。成年後見や終活への市民の関心も高そうだ。
 自分らしく迎える最期とは。自分のこととして考えてみてはいかがだろうか。
NPO法人十いろ

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