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災害・復興支援

それぞれの強みを活かす災害時の協働

2023.03.29
内容
 災害発生時には、様々な個人・団体の協働により、被災地支援の活動が行われている。
 長年災害ボランティアセンターの運営に携わり、災害のスペシャリストであるにいがた災害ボランティアネットワーク理事長の李仁鉄さんに、県北地域を中心に大きな被害が発生した2022年8月の豪雨災害時の実例を元に、災害時の協働についてお話を伺った。
協働の形態
災害支援
協働の主体
にいがた災害ボランティアネットワーク、新潟県社会福祉協議会、新潟県内市町村の社協福祉協議会、新潟県内外のNPO団体複数、様々な企業、学校
自治体
村上市、関川村
■被災者から手をさしのべる側へ
 にいがた災害ボランティアネットワーク設立のきっかけは、2004年に発生した7.13水害時にさかのぼる。
 当時開設された、三条市災害ボランティアセンターに集った有志が、平常時から災害支援の取組を進めるための常設・専門の災害ボランティア団体の必要性を痛感。また、災害支援活動を通じてできたつながりをなくさないこと、三条が助けてもらった恩返しを目的に、2005年5月に任意団体として設立し、同年12月にNPO法人格を取得した。
 設立当初は災害時にボランティアとして活動することを目標としていたが、他の地域へ応援に入ってみると、多くのボランティアが集まったとしても、ボランティアセンターのスタッフが足りなくて受け入れができないケースがあることを知った。そこで、自分たちはコーディネーターの役割を担う団体となってはどうかと考え、次第に活動が変化していった。

 現在の活動としては、災害発生時にすぐにボランティア活動ができるように活動資器材を備蓄し、被災地への貸出を行ったり、ボランティアセンター立ち上げ時のコーディネーターや、その後の支援人員の派遣を行っている。また、人材育成事業として、ボランティアリーダー・コーディネーターの養成講座の開催や、防災啓蒙に関する講演などを行っている。
 理事長を務める李さんは、7.13水害で自身が被災し、ボランティアを初めて身近に感じたそうだ。その3ヶ月後に発生した中越大震災の際には、1ヶ月ほど支援活動に参加し、その際に知り合った仲間に誘われて「にいがた災害ボランティアネットワーク」に、ボランティアスタッフとして参画することになった。その後、会の法人化に伴い常勤職員になり、2008年5月より事務局長、2017年理事長に就任した。現在は、講演活動などの為、全国を飛び回る多忙な日々を送っている。
■災害時の協働とは
 2022年8月3日に新潟県北部を豪雨が襲った。翌4日に李さんは新潟県社会福祉協議会の職員と現地入りし、村上市社会福祉協議会で活動を開始した。普段は法人でトラックを手配して資材を現場に運ぶのだが、今回は手配が間に合わず、燕三条青年会議所所属の様々な企業からトラックを提供してもらい、資材を積み込むと次々に村上方面へ走りだしてもらった。
 災害ボランティアセンターを開設するには、まず被害の総数、分布、程度や電気・ガス・水道・交通・通信などのインフラの被害状況などの調査からスタートする。そういった被災状況や復旧の見込みなどの情報を行政から提供を受け、ボランティアセンターを開設するかどうかの判断を決定する。今回は被害の規模が大きかったので、発災翌日には村上市と関川村で災害ボランティアセンターの開設が決定した。
 次に災害ボランティアセンターの設置場所の検討、内部のレイアウトのデザイン、広報用のチラシの作成など運営開始に向けた準備が同時に進行していく。設置場所が決まれば、あとは会場の設営、組織図の作成、人員の配置決定が行われる。これらの作業が、3日間ほどで行われたという。「これは協働体制が成立している新潟だからできること。公募の開始ではなく、実質としてボランティアの受入がいつからスタートしたかで言えば、新潟は圧倒的に速い。村上市役所も関川村役場も協力的でコミュニケーションは非常に良好だったので、災害ボランティアセンターの場所の決定に苦労はしなかった」と李さんは語る。
 支援活動では、民有地の片付けについて行政が携わることのできる範囲は限られており、家を綺麗にして住めるような状態にするところまではできないため、ボランティアの協力が必要となる。しかし、ボランティアが集めたごみや泥を自分たちで処分できるわけではないので、ゴミ出しなどのルールを行政に決めてもらい、そのルールに従って活動する。李さんは「もともと信頼関係があり、風通しの良さというものがこの二つのセンターでは感じられた」と当時を振り返る。

 災害ボランティアにおいては、ノウハウを蓄積しているNPOがアドバイザー的な役割を果たすことで、無駄なくスムーズに物事が進んでいく。
 企業に関しては、個別というよりは青年会議所やライオンズクラブなどによる企業人を主体にした団体の参加が中心であったが、ある観光会社にはセンターから現場までのボランティア輸送用のバスを出してもらい、人数の増減にあわせて柔軟に対応してもらうなど、色々な企業が各社の強みを活かして協力してくれたそうだ。
 また、生協や連合(※1)など、日ごろから積極的に研修や講習などに参加していた団体が、物品だけでなく、受講生をセンター運営に派遣してくれた。「派遣された方々は一日いてもらえたので、柔軟に動いてもらっていた。研修を通じてできたつながりを活かすことができた」と李さんは話す。
 他にも、学生はボランティアに、教職員や社会人学生は受付班など、災害ボランティアセンターの運営に人材の提供を継続して行ってくれた大学もあったという。
「例えば青年会議所のメンバーは日中個人の会社の仕事を抱えているので、朝、夕に忙しい資器材班(※2)を担当してもらう。聞き取りに慣れている民生委員に要支援者世帯への個別訪問を依頼するなど、適材適所の協働の工夫が必要である」と李さん。
 平常時からなんらかのつながりがある人が、災害時に現場で動いている人から声がかかって集まり、行政、社会福祉協議会、企業、NPO団体、ボランティアなど、様々な人の協働によって支援活動が行われている。

※1 生協とは、新潟県生活協同組合連合会
  連合とは、日本労働組合総連合会新潟県連合会

※2 資器材班…スコップや一輪車など、道具を管理する班。
■これからの協働のカタチ
 にいがた災害ボランティアネットワークでは、平常時から行政や企業など多様な主体とかかわりを持つことで、法人がどのような団体なのかや、災害時に必要な物品や役割のイメージを持ってもらっている。
 このようにして相互理解を深め、信頼関係を構築していくことが、協働が成立する上で重要な条件であると李さんは思っている。
 「これは私たちの努力不足なのですが、まだまだセクターを越えた相互理解が浅いせいか、企業人のみなさんにとってボランティアセンターは泥出しをしているイメージが大きい。こちらは企業人にどんな人がいるかわからないから、具体的なお願いをすることができない。結果として今まではお金や物品のみの協力依頼が中心であった。自分たちの工夫が足りず、わかりやすい支援に留まっていたのではと思う。しかし、平常時から企業と関わりをもつことで、理解を深め、有事の際に自分たちに何ができるかイメージしてもらうことが大切だ」と李さんは語る。建築士なら人が効率的に動ける空間のデザインをつくる、ITの企業ならデジタルデータを分析して新しいニーズを見つけだすなど、企業人が持っているスキルを活用することで、ボランティアセンターの運営が格段にスムーズになっていくと李さんは考える。
 「社員にとっても、企業の枠を超えた新しい環境での取り組みは、多様な人と出会うことで成長できるチャンスである。また、社会貢献をする事で企業のブランド価値を高めることは企業にとってメリットがある。各地に支店や営業所のある企業から、従来のボランティア提供に加えて、ボランティアセンターの運営スタッフに人材を出してもらうことで、県境を越えての募集ができない時の壁を超え、人材を確保することができる。」と李さんは語る。

 いつ、どこで災害が起きるかわからない時代。平常時から防災を意識した関係性の構築が求められている。
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