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健康と福祉

農福連携で、荒地の有効活用と障がい者の多様な働き方の実現へ

2021.05.28
内容
福祉事業を営むNPO法人支援センターあんしんと馬による耕作「馬耕」に取り組む株式会社三馬力社とが協働し、農業と福祉の連携事業がスタートしようとしている。チャレンジ精神を持ち、新しい取り組みへの意欲あふれる樋口功会長と久保田学常任理事に想いを伺った。
協働の形態
事業協力
協働の主体
NPO法人支援センターあんしん、株式会社三馬力社
自治体
福祉NPOが地元法人と取り組む農業の形
 県内有数の豪雪地帯として知られる十日町市は、「コシヒカリ」の産地としても名高い。この豊かな自然に囲まれた土地で福祉事業を営むNPO法人支援センターあんしん(会長樋口さん)と、馬による耕作「馬耕」に取り組む株式会社三馬力社とが協働し、農業と福祉の連携事業がスタートしようとしている。
 支援センターあんしんは、十日町市で障がい者の就労継続支援や共同生活支援を展開しており、今期で20年を迎える老舗のNPOだ。特に、就労継続支援で行っている、包装にデザインを施した「デザイントイレットペーパー」は、十日町市のふるさと納税の返礼品に採用されているほか、地域企業の贈答品として数多くの引き合いがあるなど、注目されている。
 一方で、作業所内での仕事について、あんしんの利用者によっては機械的な作業が合わないこともあり、外での作業の提供といった多様な働き方の実現も模索していた。樋口会長は「あんしんとしても農業ができないか」と考えていたという。
 そのおり、十日町市と津南町で馬耕による有機農業を営む三馬力社の協力を得る形で農業への参入のきっかけが訪れた。三馬力社の役員と樋口会長が以前より縁があったことや、三馬力社の拠点選びにも関わったことが契機となり、2020年の秋には同社の酒米作りを行う田んぼで、草取りと稲刈りを手伝うなどして協力関係を深めていった。
バリアフリーの水田づくりへ
 支援センターあんしんが耕す予定の土地は、作業所から歩いて3分ほどの場所にある。十数年耕されていなかった土地があることは通年目にしており、樋口会長も「年々誰もやり手がいない農地が多くなっている」こと気がかりだった。そこで管理をしている地権者に声をかけたところ、二つ返事で貸していただくことができた。
 一からの整備は骨の折れる仕事ではあるものの、プロの協力も得られたことで圃場整備を一週間かけて行った。冬の間には、雪の重みで土壌がしまり、2021年の春には、お米や野菜を育てることができるそうだ。
 整備に関しては工夫も凝らしており、通常の畔道の幅は50センチ程だが、それを1mと広くすることで利用者が歩きやすいようにしている。他にも田んぼの脇に駐車場を設けて、車椅子の方も農地へ出向くことができるようにすることで「みんなが利用できるバリアーフリーの水田を作りたい」と樋口会長は語る。
 まずは、在来馬の木曽馬や寒立馬など、性格も温厚で、さらによく訓練がされている農耕に適した馬を主に使っていく。また、障がいがある皆さんとの相性も良く、ホースセラピーの側面も期待されるそうだ。あんしんとしては、いきなり馬を飼うことはできないため、初めは三馬力社より馬を借りて、冬の馬の管理や蹄の手入れなど飼育技術の勉強から始めるという。
チャレンジ精神が協働を生み出す
 将来、あんしんでは、取れたお米を加工品にしてパンケーキ作りを行うことなど、あんしんの利用者が耕作から製造の各段階に関われることで、利用者とお客さんとの距離を近づけるような働き方を目指しているという。
 また、十日町市では「大地の芸術祭」が開催されることでも有名だが、作品が各地に点在していることから、あんしんの就労者が馬を曳(ひ)きながら、お客さんと作品展を周る「芸術祭巡り」なども構想している。「馬の活用を十日町の名物としたい」と樋口会長のビジョンは尽きない。
 あんしんは、今期で20年を迎えるが、その間に就労継続支援や共同生活支援(グループホーム)といった福祉事業のほかにも、地域の小中学生の送迎や、近年では電力会社の営業代理など様々な事業を展開していることが特徴だ。
 「世の中が大きく変化しているため、今まで良かった事業が続くとは限らない。あんしんとしての強みが出せるものがあればチャレンジしていきたい」と新しい取り組みへの意欲にあふれている。
 「どこかで無理をして苦しくなる事業はうまくいかないが、楽しくやれてみんなが協力したい事業は、黙っていても自ずとうまく進んで行く。これからは町のなかにある田んぼで活動をPRして行くことがあんしんの役割」。
 利用者の福祉の向上と、あくなきチャレンジ精神から、地元法人同士の協働による農福連携事業が動き出している。
支援センターあんしんHP